自然の恵みと、オリジナル料理第一号

自然の恵みと、オリジナル料理第一号
私は小さい頃、野山に囲まれたところに住んでいました。自然が豊かな中で育ってよかったなあと思うのは、野菜が成長する姿や、木の枝になってる状態を見てたこと。キュウリでもナスでも、花がパッと咲いて、そこからだんだん大きくなっていく、そういう成長の過程を見るのは楽しいし、勉強にもなる。
食材への愛情
トウモロコシは緑色のカバーみたいな葉っぱをかぶってるでしょ。ぼさぼさの毛が生えてる上のほうをちょっと引っぱって開けて、食べごろを見るの。「まだ若いなあ」と思ったらもう一回かぶせて閉じたりして。誕生から大きくなるまでぜんぶ知ってるから、野菜のひとつひとつをいとおしく感じるの。スーパーでは食べる直前のきれいな状態で売ってるけど、自然のままの姿に触れられたっていうのは大きかったと思います。食材のひとつひとつに愛情を持つ。これも料理を楽しむ上でとっても大事なことですから。
食材への愛情
本当のアウトドア
あの頃は、子どものおやつっていったら、駄菓子屋で買うお菓子でしょ。私はそんなものより、自分で作るのが好きだった。「おなかすいた、何か食べたいなあ」と思ったら近所にあるもので作りたくなっちゃう。
近所の野菜畑からサツマイモとかカボチャとか取ってきちゃってね、庭で薪を燃やして、お鍋をつるして煮込んで、近所の友だちを呼んで食べさせたり。今で言う、アウトドア・パーティね。
今はお金を出せば何でもすぐ手に入るけど、物がない時代はそういう楽しみもあったんです。だけど、黙って取ってきちゃうのはまずかったですね。ある時は取ってきた野菜を並べて「らっしゃい、らっしゃい」なんて八百屋さんごっこをして、子ども同士で紙のお札で売り買いごっこをやったもんだから、近所で大騒ぎになっちゃった。

オリジナル料理の第一号
小学校の五年生か六年生のときのこと。ある日の夕方おなかがすいて、台所にお母さんがいなかったから、自分で夕食を作っちゃった。
庭になってたトマトをとってきて、台所に置いてあったピーマンといっしょにお鍋に入れて、うどんも入れて、コトコトコトコト煮込んで、味つけは塩と胡椒をガリガリしてでき上がり!夏のまっ盛りにフーフー言いながら食べて、おいしかったなあ。
これって、誰かに教わったんじゃない。本に出てたわけでもない。自分で身近にあったものを使って作った私のオリジナル料理の第一号です。
「自分で作ったものがこんなにおいしいんだ」と思ったし、「こんな世界があったんだ」って思うくらいの大発見だったわけ。
料理って食材に触れることができて、目で楽しんで、鼻でいい匂いを嗅いで、耳で炒める音を聞いて、口でごっくん美味しさを感じて、唯一五感を楽しませてくれることができるんだって、小さいときに知っちゃったのよね。
オリジナル料理の第一号
それから少しずつ自分で料理を作るようになりました。でも小さいときのお料理なんて、ダシとか、むずかしいことは知らないし、味つけも台所にあった固形スープをポンと入れるだけ。
それでも、ピーマンとかトマトとか、煮込んでるとおいしい旨みがどんどん出てくるってことに気がつくと、野菜には旨みがいっぱい詰まってるんだってわかるでしょ。いろんな種類の野菜を入れると、それだけ複雑な味になって、おいしい。こういうことも自分でチャレンジしているうちにわかってきて、ますます楽しくなっていきました。それから何十年かしら。今でも料理をするときは、あの頃と変わらないワクワクする気持ちになれます。それはきっと、楽しくのびのび過ごした子ども時代のおかげですね。