商品開発の裏側、
こっそりお見せします。

「つくる時間も、たべる時間も、いい時間に。」をモットーに、レシピや調理道具を発信するremy。レミパンプラスの発売10周年を機に、あらためて「いい調理道具って何だろう?」について考えてみようと、平野レミと和田明日香が、プロダクトデザイナー・柴田文江さんのオフィスを訪ね、ざっくばらんに井戸端会議。料理家、そしてデザイナーが思う、いい調理道具とは? remyの商品が生まれる裏舞台、こっそり公開します。

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10年の節目に。

レミ お久しぶりで~す!

柴田 お久しぶりです。一番最初にお会いしたのは2014年?レミさん本当に全然お変わりないですよね。あの時はおいしい料理もご馳走になっちゃって。

レミ やだ。恥ずかしい。

明日香 恥ずかしいって。プロでしょうが。

一同 (笑)

率 文江さんにレミパンプラスのデザインをしていただいて10年が経ちました。この節目に、チームのみんながお客さんにインタビューをしているんですが、皆さん、機能より先に、「デザインと世界観が好き」って言ってくれる。

レミ 世界観・・・ へぇ~嬉しいね。

柴田 私もレミパンしか使わなくなっちゃったけど、やっぱり使いやすい。デザインがいいものって、使うのに気を使う時もあるけど、リラックスして使えるのは、レミパンの世界観なんだと思う。

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デザインの裏舞台。

明日香 もうすっかり柴田さんのデザインに見慣れちゃいましたが、10年前、レミパンの相談をされた時はどう思いました?

柴田 レミパンは既にキャラクターが確立してたじゃないですか。「え、デザインするの?」って思ったんですけど、実際に使ってみたら、道具としてすごく使いやすくて。私みたいに、キャラクターが立ち過ぎてて手を出せない人とか、レミさんファン以外の人にも、道具としての使いやすさを広めるのがデザインの役目だなって思いました。

レミ そんなこと考えてたんだ!

率 機能としては、磁石ハンドルに調理ツールがくっつくのが新しくて。でも、作るのがすごく難しくてメーカーさん(※)を困らせてしまい、代わりにハンドルに穴を空けてそこにツールを引っ掛ける案もありました。

※メーカーさん=新潟県燕市の家庭用品メーカー「和平フレイズ株式会社」

柴田 引っ掛け案、覚えてる。

率 設計もしていただいたんですが、穴があるとデザインとして事情を感じる、ということで、文江さんはマグネットにこだわってくれて。文江さんがいなければマグネットのハンドルはなかったと思います。

明日香 より魔法感がありますよね。マグネットのピタっ!ていう感じ。

レミ うん、そうそう、みんなびっくりするよね。

明日香 このツートーンはどういう狙いだったんですか?今さらですけど。

柴田 レミパンは深さがポイントだと思ったんだけど、蓋を外したときに、レミパンの側面が間延びすると思ったんですよ。見た目の密度をキュッとリッチに仕上げたかった。ツートーンにすると細く見えるし。

明日香 あーなるほど、密度か。たしかに面は大きいけど間延びしてない。

レミ 密度なのこれ?

柴田 かっこ悪いものって密度感がないんですよ。たとえば俳優さんとか顔立ちが綺麗な人って、顔に密度感があるじゃないですか。普通の人がテレビに出ると、のぺーっとしがちでしょ。それが密度。

明日香 へえーなるほど。

レミ それ化粧のおかげでしょ?

一同 (笑)

柴田 ツートーンにするとフタを取った時に密度が出るし、アイコニックなものになる。特に女性は、モノの形を覚えにくいんですね。車がみんな同じに見える、みたいなことあるじゃないですか。でも色は記憶しやすいんです。

レミ いまだにツートーンのフライパンは世の中にないね。みんなこんなに手間かけてフライパン作らないものね。

柴田 美味しいものがちゃんと作れる、っていう感じが欲しかったから、火が当たるところは道具っぽさが出るようにグレーにして、高級感も出しつつ、ツートーンで段差をつけて密度を上げて・・・

明日香 聞いてたら欲しくなりました(笑)

柴田 買う人が「あぁ、今っぽいな」とか「なんとなくいいな」って感じてくれたらそれでいいんですけど、デザインを解剖して説明すると、そういう話。

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統一感より、使いやすさ。

率 レミパンはもちろんですが、文江さんのご提案ですごく印象的だったのは、調理スプーンです。普通なら、統一感を考えて、他のツールと長さを揃えたくなるところ、「調理スプーンだけは短くていいんじゃないか」って。

レミ どうしてどうして?

柴田 お料理するときのことを考えた時、スプーンは他のツールと少し用途が違う感じがする。杓子定規でデザインするなら長さを揃えた方がかっこいいんだけど、レミパンのシリーズはそれよりも使いやすいってことが大事だから。長さがガタガタしててもいいなと思って。

明日香 いいですね~、わかります。スプーンは食べ物に近いところで手を動かしたいですよね。柴田さんが最初に仰ってましたが、デザインがいいものって、使うのがもったいなかったりするけど、レミパンシリーズはガシガシ使える道具感もありながら、置いておきたくなるかっこ良さもあるのがちょうどいい。

柴田 お料理する人ほど、そう言いますね。私の友達も料理にこだわりがあって、キッチンもすごく素敵で、以前はオシャレな外国製の道具をいっぱい使ってたけど、今はレミパン3個持ってて、それでガシガシ料理してる。

明日香 何でも作れちゃいますからね。スタジオとか旅行先だと、そこにある調理道具が使いにくくて。レミパンだけは持っていくんです。レミパンさえあれば何とかなる。レミさんが発明してくれたおかげだ。

柴田 ね。この深さが本当に発明ですよね。何でこの深さになったんですか?

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レミパンが生まれた背景。

レミ 昔はね、浅いフライパンしかなくて、煽ってるとどんどん散らばっちゃってたの。深さがあれば何でも作れるし。底のカーブもよ~く計算して。初めてのことばかりだったから、新潟のおじさん(※)とはずいぶんやり合ったね。変なの持ってくると、「“レミパン”って、私の名前つけるなら、こんなんじゃダメ!」って。でも、そのおじさんがいい人でね、全部叶えてくれた。

※新潟のおじさん=新潟県燕市の家庭用品メーカー「株式会社オダジマ」の小田島会長。レミパンの誕生から25 年経った今も、同社で製造の一部を手掛けている。

明日香 妥協しないで良かったじゃないですか。そもそも、何でレミパンを作ることになったんでしたっけ?

レミ あの時は毎日毎日、テレビとか雑誌とか書籍とか、お料理の仕事をいっぱいやってて、台所もぐっちゃぐちゃになっちゃって、1つあれば何でも作れる鍋はないかなと思ってたの。そしたらある時、そのおじさんから電話がかかってきた。「レミさんが理想とする鍋を、うちで作りたいんだけど」って。おじさん、神様みたいだったんですよ、本当に。

明日香 神様のことを「おじさん」って(笑)。蓋が立つのもレミパンが初ですよね。

レミ そう。台所がぐっちゃぐちゃで、蓋の置き場がなかったから、立ったらいいのになぁと思ってたの。あと、昔は鍋に色がなかった。鍋に色をつけたのもレミパンがはじめて。

柴田 カラフルで見た目がすごく可愛いから、先にキャラクター性が目立っちゃうけど、実際はすごくちゃんとした道具なんですよね。

レミ もっとこうして、もっとこうしてって、完成まで3年くらいかかったからね。おじさんよく頑張ってくれてね。感謝感謝です。

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それぞれの想い、こだわり。

柴田 新しいシリーズの時は、明日香さんも打合せに参加してくれましたけど、料理される方の声って、デザインする側にはダイレクトに届きにくいんですよ。でもremyの場合、皆さんの「ああしたい、こうしたい」が直接聞けたから、気付かされることもたくさんあって。自分はそれを線にする係なんだな、と。リアリティがあって面白い仕事でした。

率 リアリティといえば、実は、母はレミパン以外の調理道具にはデザインにこだわりはなくて、台所も道具も雑然としています。美味しく作れたら道具は何でもいい。でも、器にはすごくこだわりがある。

レミ よく知ってるね。器にはこだわってるよ~。この料理はどんな器に乗せようかな、このお料理にはこれかな、こっちの方が美味しそうかなって。そうやって考えている時がすごく楽しいの。

柴田 作業として調理するのと、それをプレゼンテーションするのは違うんですね。作るときは、自分がやりやすい道具で。だけど、出すときはプレゼンテーションだから、器にこだわって。

レミ 料理と器は、顔とヘアスタイルの関係と同じ。ヘアスタイルによって顔の印象が変わって見えるじゃない。絵と額縁の関係も同じね。器選びは楽しいものよ。

明日香 私も器大好きだけど、レミさんと違うのは、調理道具もデザインにこだわりたい。少し不便だったとしても、いい景色の中で料理がしたいって思っちゃう。率さんはまたちょっと違ってて、いつも道具の不便を探してるんです。私が気に入って使ってるのに、この道具のどこが不便で、どう風に改良したいか、しょっちゅう聞かれるんです。

率 仕事だからねぇ(笑)

明日香 私は、どちらかというと道具に合わせられる。手に馴染むまではちょっと時間かかるけど、何回か使えば仲良くなれるというか。使いやすさより、キッチンに置いてて気持ちいいかどうかを優先したいんですよ。

柴田 あぁ、そういう意味では、remyのこれからの進化は、率さんと明日香さんのこだわりの両立、って感じがする。痒いところに手が届いて不便を解消するんだけど、使うときにテンションが上がるデザインとか。そういう気分って、世の中も少し変わってきてますよ。

率 これまでは、母が作ってきた世界観に合わせて、「新しいアイデアがあること」を企画のルールにしてたんです。既存の道具の隠れた課題を見つけて、それを全く新しい方法で解決するという。明日香が言うような、ただ単に気分のいいものを作るというのは、軸がブレてしまう気がして。

柴田 理詰めで考えたアイデアが面白いってこともあるけど、なんか気持ちいいだけで使っちゃうこともあるし。レミパンシリーズでは、ルールに縛られ過ぎず、色々ミックスしていける感じがする。

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ほっとする、やる気の出る道具。

明日香 私は土鍋とか、木のザルやせいろが大好きなんです。やっぱり気持ちよさを感じるから。料理を続けているうちに、都会的な感じのかっこよさより、昔からの知恵が詰まった自然なものに惹かれるようになってきました。

柴田 私もそう思ってて。例えばremyの菜箸は今プラスチックだけど、先端の素材を木にしたり。スチーマーも、昔ながらのせいろのような天然素材を合わせたりすると、また次の世代の感じがする。

レミ 天然の素材、いいね。ほっとするもの。

明日香 ほっとするよね。

率 あんまり大きな声では言えないですが、母は家ではremyのヘラより、焦げ焦げの古い木ベラを使ってます。

レミ あははは。バレてた?そう。食べ物だって何だって、有機が好き。

柴田 ミックスしていくといいな。レミパンシリーズの便利さと、自然素材と合わせたハイブリッド。キッチンの絵がすごい変わりますよね。

明日香 それ、欲しいです。すごいやりたいです。remyの中のオーガニックラインみたいやつを、ちょっとずつ。

レミ いいじゃない。やろうよやろうよ。

柴田 完全にほっこりさせないで、ちょっとだけそういう要素が入っていれば、新しい便利さになると思う。土鍋でもせいろでも、remyシリーズでやったら、職人さんが作ってるような良さとは別の良さが作れると思うんですよ。

明日香 土鍋は手が出せないって人でも、例えば、土鍋の底だけ焦げ付かないコーティングがされてたら、敷居が下がるかもしれない。使ってみようって思うかもしれない。

柴田 そうですね。デザインって、かっこいいものを自分のものにして持っておきたい、みたいなことも重要なんだけど、「あ、これなら料理できそうだな」って思ってもらえるかどうかとか、そういうことまで設計しなければいけない。それはレミパンのデザインを通じて感じたことですね。

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私たちにできること。

率 最後のテーマを。日本って、自炊率はすごく高いんだけど、他の国と比べると、料理を苦痛に感じる人がすごく多いんですね。「ちゃんと作らなきゃ」っていう、真面目な国民性が根本にあって。

レミ へえ、不思議だね。あんなにいっぱい料理番組やってるのにね。

明日香 それが逆にプレッシャーになってるのかもしれないですね。料理はやって当たり前だ、っていう。

率 自分たちが世の中に貢献できることがあるとすると、料理の苦痛を和らげてあげたり、料理の時間をもっと前向きな時間にしてあげることだと思うんですね。道具を通して。もちろんレシピでも。

レミ 難しくて美味しいものじゃなくて、ホイってできて、ごっくんしたら美味しい、ってのがいいね。

率 そう。レシピはいつも2人がやってくれているんだけど、道具はどうあるべきか? 100均なんかにも、安くて便利な道具はたくさんある。それじゃ何がダメなのか、と。

柴田 そういうものを使っていると、きっと、ボディーブローのように気持ちが冷めていくと思いますよ。私はレミパンばっかり使ってるけど、何というか、使ってて寂しい感じがしない。使ってて楽しいんだけど、道具としてしっかりしてる、っていうのはすごくいいと思う。安さが売りのものばかりを適当に使っていると、きっと、キッチンに立つのがどんどん嫌いになっちゃいますよ。

明日香 料理も同じだと思うんですよね。こんなもんでいっか、とりあえずお腹いっぱいになればいっか、って気持ちで料理してると、食べたときに美味しいって思えないですよね。それだと一向に料理は楽しくならないだろうなって。

柴田 私はデザイナーだから、道具によってやりたくなること、結構あるんですよ。例えば、包丁をデザインしていい包丁を作る。すると、魚をさばいてみようかなという気持ちになる。レミパンやレミさんのレシピも同じで、じゃあやってみようかと、料理のハードルが下がるんですよね。

レミ あ~ら嬉しいわねぇ。

柴田 もしこれから、自然素材を使ったシリーズを取り入れていけたら、さらに間口が広って奥が深くなると思う。今はみんな、道具の表層しか見てないと思うんですよ。レミパンって本当はすごい実力派なのに、実力に気付いていない人がいっぱいいる。本当にいいものなんだって伝えるためには、自然素材は合う気がします。時代にも合ってるしね。

レミ 自然素材とか有機ってのはやっぱりいいわよ。やってみようか。勇気を持ってね。

明日香 そういえば、オイルポットも楽しみですね。

柴田 ですね。あれがあったら私も揚げ物するかも。

レミ あら、ここまで出来てたんだ!

率 お母さん節約家だからオイルポットは助かると思うよ。エコだし。ほら、この前覚えた英語。

レミ LGBT?あ!違う!

柴田 SDGsですよね(笑)。

レミ それそれ。

柴田 ルールに縛られ過ぎず、リミットを外してもらったら、またいろいろ作れそうですね。

率 ですね。またご相談させてください!

レミ&明日香 ありがとうございました!

撮影 : 平野太呂

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「ただ簡単なだけじゃなく、笑顔になれるお料理を。」「ただ便利なだけじゃなく、使っていて気持ちいい道具を。」ものづくりの中心に置きたいのは、やはり“人の心”かもしれないな・・・今回の鼎談は、それを改めて共有する場になりました。この作戦会議をもとに、remyではまた新しい構想が動きはじめています。どんなかたちでお披露目できるか——どうぞお楽しみに。

remy