だしを知らないお嫁さん

だしを知らないお嫁さん
明日香です。わたしは結婚する前まで、「だし」というものがこの世に存在することを知らずに生きていました。そんなことも知らずに、レミさんのところの嫁になってしまったのです。今回は、わたしが料理のことで最初にぶつかった壁、「だし」についてお話しようと思います。
だしを知らない嫁
結婚して、料理をはじめてすぐのこと。寒い時期だったので、カラダがあったまる汁物を作ろうと、レミさんのレシピ本から「ごぼう汁」を選んで作ろうとしました。作り方は、「濃いめのかつおだしに、豚肉、ごぼうを入れ、アクをとりながら煮る。酒、しょうゆ、コチュジャン、味噌で味付け。」と、そんな感じ。

「濃いめのかつおだし?」当たり前のように書かれているけど、わたしにはその言葉の意味がサッパリわかりませんでした。「かつおだしってなんだ?しかも濃いめ??」すぐにだしについて検索。スーパーに行き、“花かつお”との初めての出合い。小さなパックの細かいかつお節しか知らなかったので、その大きさにびっくりしたことを覚えています。それ以降、ごはんを作るときは、だしをとることから始めるようになり、そのうち、「丁寧にだしをとって料理をすると、たしかになんだかおいしくなる」、ということがわかってきました。そしてふと、母が作ってくれていたごはんは、だしの味がしていたことにも気付きました。
だしを知らない嫁
「うま味」ってなんだ?
だしのことがわかってくると、今度は「だしの正体はなに?香り?それとも味?」「だしがきいているとおいしいのはなぜ?」と考えるようになりました。そして、食育インストラクターの勉強をするうちに、その答えは「うま味」にある、ということがわかりました。

「うま味」というのは、もともとは世界的に認識されていなかった味覚で、その存在は、100年ほど前に日本の研究者によって証明されたそうです。なにやら、舌の表面に「うま味」だけに反応する受容体が見つかったのだそう。甘くもなく、しょっぱくもなく、苦くも酸っぱくもない。でも、確かに味として感じている、「うま味」。それは日本の十大発明のひとつと言われ、後に海外でも「Umami」の呼び名で、トップシェフたちの関心を集めるようになりました。
「うま味」ってなんだ?
だしは、文化
海外のシェフたちは、ドライトマトや、ポルチーニ茸、貝類、鹿節(鹿肉をいぶして熟成させたもの)など、その土地土地の素材を使って、料理に「Umami」を出す工夫をしています。日本の代表的なうま味食材には、かつお節や昆布、干し椎茸があります。和食のだしにこれらの素材がよく使われるのは、風土的な背景があるんですね。

国や地方によって、だしの素材が変わる。作る人の味覚によって、濃さが変わる。それらを掛け合わせて、家庭の味がつくられる。「だしはその家の味を決める」と、レミさんもよく言っていますが、そういう意味でも、化学のチカラを借りて味をつくるのは、あんまりおもしろくない。我が家の味を決める母として、だしのことは大切に考えなくては、と思います。
だしは、文化
だしの英才教育
特に離乳食は、調味料を控える代わりに、だしが大切です。離乳食真っ最中の我が家の末っ子のお気に入りは、切り干し大根の戻し汁と昆布を合わせただしで、すりおろしたレンコンとごはんを炊いたお粥です。切り干し大根の戻し汁は、大根の甘みが凝縮しただしとなり、それに昆布だしのうま味が合わさって、レンコンのとろみも加わります。作っているそばから、つい味見しすぎてしまうほど。調味料を使わない分、「そうか、この素材からはこんなだしが出るのか」と、気付くことが多くなりました。数年前、慌ててインターネットで「かつおだしとは」と検索したころに比べて、ずいぶん成長したものです。
だしの英才教育
だしとレミさん
だしと言えばもうひとつ。話は戻り、わたしがだしに慣れてきた頃のこと。レミさんのキッチンで、衝撃の光景を目の当たりにしました。レミパンいっぱいにお湯を沸かしたレミさんが、特大サイズの花かつお一袋を、全部一気に放りこんだのです(一般的には、ふたつかみ程度)。「本節を買ってきて削れたら一番いいんだけどね、」と言いながら、その山のような花かつおを無理矢理お湯に沈め、沸かして、ザルでこしたあと、これでもかとギュウギュウ絞っていました。分量や火加減はもちろん、かつお節のアクや雑味がどうとか、そんなことは一切気にしていないような、レミさんの豪快すぎるダシの取り方。そして、かつお節まみれのレミさんが言った、「最近の花かつおは香りが弱いから、これぐらいしないとダシとった気がしないの!情けない!」というひと言。わたしはきっと、一生忘れません。
だしとレミさん